見ていると ふっ　と 触りたくなる さかなやの その まないたの上の 手だ 　　 手なれた包丁が 腹を　よぎっていく 身も　腸も 削ぎ落とされて さかなは うっそりと 荒ぶしげな表情をしている 　　 どこかで そんな表情を　見たことがある そう思って 巡らすと 行きあたった あの時の 顔　だ 　　 わかれ目から　滑っている ちがう晩に ちがう男が 別々のやり方で ひとつ ひとつを 拡げている 　　 見ているうちに 見ているのが私なのか 拡がっているのが私なのか わからなくなる 　　 見ている私の顔が まないたの上の さかなの表情に行きあたる 　　 さかなは 身を削ぎ落とす包丁の音に なつかしい海の声を 聞いている 　　 私の体に続く 海の　その 波打ち際にしか 男たちはやって来ない 突き上げる 沖の同間声を 聞きたいと思う 　　 聞きたい私の表情が 聞いている魚に重なっている いつか さかなやのまないたの上に寝そべって 下腹をよぎる手をのみこむ さっと 波打ち際に ひいていくのだ それからは 沖へ 沖へ はだかの女になって 泳いで行く
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