この商売を始めて１０年。 おんぼろワゴン車に乗って旅から旅の毎日。 最初はワゴン車なんてなかったから、 大きなトランクを、２つも３つも抱えて、汽車に乗り、船に乗り、 一っ所には二ヶ月もいなかった。 行く先々でいろんなことがあった。 でも、すべてが私にとっては過去のこと。 あとは振り返らないたちだからね。 この一座のいいところは、人間は私ひとりだってこと。
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若い時は、キャバレーで踊っていたこともあったし、どさ回りの女優もした。 子役をやって、吊りスカートにランドセルしょってスキップしてたら、 「だっせー、大人じゃん。うそじゃん」って、子供がやじった。 あっちこっち渡り鳥みたいな人生。 いい土地に出会ったら、しばらくそこで暮らして、 いやになったら、出て行くだけ。 人間の仲間とはうまくいったためしがない。 喧嘩や揉め事がつきなかった。 こうやって人形相手の芝居をやりはじめて、やっと落ち着いたってわけさ。 人形たちは、私のいうことをよく聞く。 あたりまえだろ、私が喋っているんだから。 でも、時々勝手にしゃべりだしてびっくりすることがある。 この頃は、生意気にも口出しなんかしてくる。 私の分身が、私が考えてもいないことを言い出すって、 いったい、どういうことだろうねえ。 長く一緒に暮らしているせいかもしれない。
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