私はまど。 生まれてからずっと、ここにいる。 私にとって、世界とは、 ここと、ここから見えるものだけ。 この古い小さな家と、 ここから見える町の風景と、 この部屋と私。 私はまど。 この家のまど。 　　 この家のあるいじは骨董品集めが趣味で、きれいなものが好きだった。 このカーテンだって、高価なアンティークレースだ。 こんなに汚れて、もうみるかげもなくなってしまったけど。 あるじは、その骨董趣味がたたって、とうとう破産してしまった。 夜逃げしたのは、もうずーっと前のこと。 それからしばらく、 わけのわからない男たちがここを占領していた。 でも、その男たちもいなくなって、 この家には誰も寄り付かなくなってしまった。 　　 それにくらべて、向かいのみみずくビル。 あの四階建てのビルも確かに古い。 でも、あそこはまだ現役。 オーナーのひなたさんは、この家のあるじと仲がよかった。 ここにもよく遊びに来ていた。 その頃は私も、いろんな話を聞けた。 でも、あるじがいなくなって、 向かいのビルのことはよくわからない。 ひなたさんも、いつからか見なくなった。 　　 ひなたさんには、まひるって名前の女の子がいる。 まひるは、ひなたさんがどこからか貰って来た子供。 まひるが来たときには、あるじもまだこの家にいた。 だから私は、彼女を知ってるの。 ほら、今、入口から出てきた、あの子が、まひる。
みみずく町異聞の天辺				次へ
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