私の目は遠くまでよく見えるの。 曇ってみえない時期もあったけど、今ではとてもよくみえる。 曇っていたのはガラスが汚れ放題になっていたから。 そのガラスもぜんぶ割れてしまって、 今じゃ、部屋中が雨ざらし。 そのかわりに、前よりももっと見えるようになったの。 　　 昔、私は家の中ばかりみていた。 きれいな部屋、きれいな家具、 そして、いつも花やレースで飾られていた私自身。 みんな、なくなってしまった。 　　 でも、窓は本来、外をみるためにあるもの。 今、神様は私に、 外を見る楽しみを、思い出させてくださったのね、きっと。 　　 この家は丘の上に建っている。 前の道を、まっすぐ駅のほうに下っていくと、川がある。 川には橋がかかっている。 その向こうは公園。 公園の桜の花が、咲いて、散って、 葉っぱが茂り、その葉が色づいて、散って、裸になって、 そうしてまた花が咲いて。 そんな景色さえ、今の私には新鮮にうつる。 　　 あ、電車がやってきた。 電車は川べりをゆっくりゆっくり走り、駅に到着する。 　　 駅の向こうに教会がある。 教会の庭に、大きな灰色の石がある。 あの石はどこか私の昔の恋人に似ている。
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私の恋人は、石でできたライオンだった。 有名な彫刻家の作品だと云われ、 あるじはそれを、とても高い値段で買ってきたのだ。 でもしばらくすると、それが嘘だとわかって、 がっかりしたあるじは、 ライオンを、この部屋にある暖炉の中にほおり込んだ。 まるで、火あぶりの刑にでもするみたいに。 　　 でも、彼は立派だった。 ひとことの泣き言も文句も言わなかった。 火に焼かれて、ますますたくましくなった寡黙なライオンに、 私は、恋をしてしまったのだ。
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