恋は寡黙が一番。 おしゃべりな銀食器や、目立ちたがり屋のランプなんかと、恋は出来ない。 私と彼は、見つめるだけで気持ちが通じ合った。 　　 夜中、家中が静まり返ったあと、二人は何度も何度も愛を交わした。 あるじが夜逃げした後は、わが世の春と、おおっぴらに愛し合った。 私たちのキスに、部屋中の壁や天井や床板が、ピーピー口笛を吹いて、囃し立てた。 柱やドアや家具たちが、興奮してふるふる震えた。 　　 そのうちに、幽霊屋敷だ、気持ちの悪い家だって、噂がたって、 家を占領していた男たちも出て行った。 男たちは、出て行く時に、残っていた家具や骨董品を全部売り払った。 私の恋人も例外ではなかった。 彼は二束三文でがらくた屋に売られてしまった。 そして、この家は、 誰も借り手がつかないまま、時がたった。 　　 私はずっとここにいる。 ここ以外に行くところがない。 空洞になった目を見開いて、ここにいて、 恋人を待っている。 彼はかならず帰ってくる。 だって、ここは、愛しい人の戻ってくる場所だ。
	（もの哀しい、でも力強い音楽が入る）
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