キャバレーみみずくは、 私がくる前から、空屋としてそこにあった。 マリーさんが、その店を再開したのは４年前のこと。 あの人はおかしな人だ。 売り上げのことなんて、まるで関心がない。 といって、けしてあそこは、儲かっていないというわけでもないのだ。 電車に乗って、遠い街からも、お客さんはやってくる。 マリーさんの歌を聴き、マリーさんの笑顔をみるために。 あんなおかまのどこがいいのか、私にはさっぱりわからない。 　　 キャバレーみみずくは、もとはひなたさんの亡くなったお母さんがやっていた店だ。 お母さんは、若い頃、隣町のキャバレーの売れっ子で、そこに通い詰めていたひなたさんのお父さんは、貧乏だったけど、株で当たって奇跡的に金持ちになり、 そのお金でみみずくビルを建て、一階をキャバレーにして、お母さんを迎えたそうだ。 両親が亡くなったあと、ひなたさんは、ずっと、キャバレーを閉めていた。 　　 ４年前、マリーさんはギター弾きのトントさんを連れて、ふらりとこの町にやってきた。 キャバレーみみずくの前を通りかかった時に、マリーさんは、ひらめいたそうだ。 「ここはとても素敵なお店になる」。 それでひなたさんに、お店の再開を直談判したということだ。 　　 この間やってきたナナは、マリーさんの昔からの知り合いらしい。 派手なペイントをしたワゴン車。 持ち主と一緒でかなりガタが来ている。 　　 あのワゴン車を舞台にして、 ナナは、日曜の昼、子供たちを相手に人形劇をみせたりしている。 私にも観ろというけど、私はあんな子供だましは嫌い。 あの女が、この町にやってきたのには、何かわけがあるにちがいない。 マリーといい、トントさんといい、 このビルにやってくるのは、いわくありがなやつばかりだ。 　　 キャバレーみみずくでは淫売が横行しているという噂がある。 去年三ヶ月ほどいた若いピアノ弾きも、 １０日ほどで出て行ったジプシー占いも、 ベッドに客を連れ込んでいた。 あのキャバレーは、いつもいやらしい客たちでいっぱいだ。 ナナも、きっとそんな男たちを食い物にしているにちがいない。 マリーさんだって、歌は隠れ家。 実のところは何者なのか、誰にもわからない。 でも、私には関係ない。 私は家賃さえもらえれば、それでいい。 　　 それなのに、最近、私は落ち着かない。
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