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音楽。 |
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女 |
栗林先生の声はとても小さい。明日は先生の座る椅子をもう少しベットに近づけておこう。廊下を行くスリッパの音が遠く聞こえる。 |
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栗林先生 |
今日はどうでした? 胸はどきどきしませんでしたか? |
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女、栗林先生の声に反応して顔を上げる。 |
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女 |
真夜中。ぐらりと来て地震かと思ったら震源地は自分の身体の中だった。胸が痛かったり苦しかったりするわけではなかった。ただ、早鐘のような高鳴りだけが何時間も続いた。病院に行って心電図をとるが異常はみあたらない。検査の間も発作は起り、埒が明かなくなって入院ということになった。手もとの書類には、心悸亢進、血圧の急上昇、褐色細胞腫の疑いと書かれてあった。 |
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間。 |
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女 |
前に入院したのは、あれは一〇年前だ。胸に水が溜まって二ヶ月病院にいた。咳がひどく胸や背中も痛かった。最初は歩くのにも息切れがしたが、胸の水が減って行くにつれて体調もよくなっていった。 |
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間。照明、明るくなる。 |
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女 |
一〇年前。私は二五才で、劇団の女優だった。 |
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女 |
恩田さんがやってきたのは、退院して、劇団の事務所で電話番をしていたときだ。 |
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恩田さん |
君、羽室こずえさん、だね。 |
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女 |
名前を覚えてくれている。 |
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恩田さん |
この間は残念だったね。身体、もういいの? |
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女 |
病気だったことまで知ってくれている。 |
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恩田さん |
それじゃ、心細くて眠れなかったでしょう。 |
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女 |
「それがよく眠れたんです。子守唄を聞いているようで」 |
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恩田さん |
子守唄か |
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女 |
恩田さんは笑っていた。 |
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栗林先生 |
明日は午後一時から二四時間蓄尿をしてください。 |
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女 |
(顔を上げて)「ちくにょう?」 |
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栗林先生 |
おしっこをためる。 |
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女 |
(顔を上げて)「ああ、はい」 |
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間。 |
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