私は一人暮らしのこの部屋が気に入っている。アパートは古く、部屋は小さな寝室と台所、お風呂とトイレ、それですべてだ。 それでも、何軒も不動産屋を探し回って。、ここを見つけたのだ。 気に入っているのは、たとえばお風呂だ。 小さいけれどもユニットではなく、白いタイル張りで窓がある。いい匂いのするハーブやソルトを入れて入る。最近はだんだん長く、２，３時間もぼんやりと入っている。 夜中だと思っていると、いつのまにか、窓から朝の光が差していたりする。 バスタブにつかって、目を閉じる。 シャンプーやリンスや石鹸の匂い。レモングラスやミントの香り。 いつのまにかバスタブは舟になって、時間の川をさかのぼって行く。 川沿いにトモヨリさんの小屋がある。小屋はとても素敵だ。私は舟を降りて小屋のなかに入っていく。 ドアはいつも開いている。中央になめらかな皮製のソファがある。私は裸のままそこに座って部屋を見回す。 壁の一方は本棚になっていて、たくさんの本が私を見下ろしている。もう一方には大きなベッド。 正面には鏡があって、裸の私を映している。ソファの横の机には果物が置いてある。 私はその中からネーブルを取り出して皮を剥きはじめる。 いつのまにかトモヨリさんが後ろに立っている。私は子供の声で、「こんにちわ、また来ちゃった」と言って、 上目使いに鏡に映るトモヨリさんを見る。 トモヨリさんは、いつも灰色の作業服姿で、白い手袋をしている。その白い手袋で、裸の私の肩を抱いている。 私は自分の手を添えて、トモヨリさんの手を胸のほうに引き寄せる。 すると手袋が剥がれて、その下から金属のフォークで出来た指があらわれる。 トモヨリさんは、フォークの指で机にあったネーブルを突き刺して私の口に運ぶ。私は口をあけてそれを受ける。 あまずっぱい汁で口元がべたべたに汚れる。口の中に残ったネーブルの皮を、私は次々と吐き出していく。 皮は胸からおなか、おへそから股の間へと落ちていく。 トモヨリさんはフォークの指で私の体中に散らばったネーブルの皮を取り除こうとする。その指は皮膚をついて血が流れ出す。 突き刺しながらトモヨリさんは、何度もこう言っている。 「みずえ、お仕置きだ。」 胸からもおなかからも流れ出した血で、私は気を失っていく。 気がつくと、私はお風呂のなかで眠っていた。 夢。でも、この夢はなぜかとてもリアルだ。小屋もどこかで見たような気がするし、 本棚の本も一冊一冊、手に取れそうな気がする。 トモヨリさん？　どうしてそんな名前が出てきたのだろう。
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