母に買ってもらったひよこが、三日ほどで死んでしまい、もりお君は、泣いている私を慰めて、 ひよこのお葬式をしてくれた。 あれは、母の再婚が決まって、私たちが引越しをする、何日か前のことだった。 ひよこはアパートの庭の、一本だけあった桜の木の下に埋めた。とても寒い日だった。 私たちはかじかんだ手で、母のスカーフにひよこのなきがらを包んで、小さなおもちゃやリボン、 チョコレートやキャンディと一緒にそれを埋めた。あとで、母に、あれはエルメスのスカーフだったのよと叱られたっけ。 もりお君は、自分の首から銀色の十字架のネックレスをはずして、それも一緒に入れてくれた。 私の大好きなネックレスだった。 街頭パーフォーマンスが終わると、お客さんに向かって挨拶をして、 その後で、もりお君はいつもそのネックレスにキスをしていた。 大切な誰かにもらったネックレスだったのだろうか、それをもりお君はひよこと一緒に埋めてくれたのだ。 その夜、母が帰ってくるまでの間、コートや毛布を身体に巻きつけて、二人で木の下でひよこのお通夜をした。 満月の夜で、月がきれいだった。 月は死んだ人の家なんだよと、もりお君は言った。 ピーちゃんも月にいっちゃったんだねと言うと、もりお君はうなずいた。みんな一緒だから寂しくないね。 私たちもいつかあそこにいくんだね。そんなことを話しているうちに私はどんどん寂しくなっていった。 もうじき遠いところに引越しをする。そうしたらもうもりお君と会えなくなる。 ○「もりお君。一緒に心中しよう。ねえ、心中しょう」 私は泣きながらもりお君にしがみついて頼んだ。 もりお君は、笑って私を抱きしめて、それからほっぺたにキスしてくれた。 ○「ほっぺたなんかじゃいやだ。唇にして」 もりお君は、ちょっとまじめな顔になって、それから、じっと私の顔を見て、唇にキスをしてくれた。 あの時の、冷たいもりお君のくちびるを、私は今でも覚えている。 あれは、２０年も前のことだ。 母は、店のお客だった材木商の男と結婚をし、またすぐに離婚をして、夜の世界に戻り、 そのあとはずっと一人で、たくましく私を育てて、７年前に亡くなった。 そして、もりお君も死んだ。
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