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Ｍ	僕はバー・グリのママであるしょうこさんに拾われて、バーテンになった。 年はいくつ？と聞かれたけど、答えられなかった。２０才かそこらに見える、というのが、グリの常連客たちの一致した意見だ。 僕としょうこさんは墓地で出会った。 お墓を散歩するのは、しょうこさんの日課だった。
Ｓ	とても小さいお墓があったの。他のお墓はきれいに掃除がしてあって、花が添えてあったりしたけれど、そのお墓は草ぼうぼうで荒れ果てていた。墓石に書いてある字ももう読めなかった。この分じゃ１００年はたっているんじゃないかって、誰かが言っていたわ。今じゃ無縁仏だねえって。わたしも夫に捨てられてひとりぼっちだったから、親しみがわいてしまったの。毎日、そのお墓に向ってしゃべっていたら気持ちが安らいだわ。 ある晩、しこたま酔っ払って、お墓に行って、勢いで、ちょっと出てこない？って誘ってみたら、本当に出てきちゃった。
Ｍ	それが僕だった。しょうこさんは僕をみつきと呼ぶ。僕が墓から出てきたのが、美しい月の夜だったからだ。
Ｓ	可愛そうに、みつきはとても若い時に亡くなったのね。
Ｍ	僕はゆうれいだ。僕には記憶というものがない。
Ｓ	死んでから１００年以上もたっているのよ。しかたないわ。
Ｍ	僕の記憶は、しょうこさんとの出会いから始まっている。 バー・グリは路地裏にある小さなお店だ。お酒はブランデーとウイスキーとビールだけで、カクテルは置いていない。あてはチーズやピーナッツといったおきまりのものだけだ。
Ｓ	だって、めんどうだもの。
Ｍ	それでも、なんとかやっていけてるそうだ。 店でのしょうこさんは、客あしらいがけっこう上手い。いつもはぼんやりしているのだが、お客にたいしては、ポイントを押さえた返事をしているらしい。 行方不明のご主人の話はいつも話題の中心だ。そのうえ、墓場から拾ってきた若いバーテンの話が加わって、客の好奇心は広がっていく。
Ｓ	あら、みつきは若いつばめなんかじゃないわよ。だって、ゆうれいなんだから。
Ｍ	本当のところそうなのだが、客は誰も信じていない。
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