それがこの間、ちょっとした出来事がありました。
時々店にいらっしゃる町内会長の磯部さんが、高齢のお母様を連れて、この店にいらっしゃったんです。
お母様はもう９０歳近い方で、それでもかくしゃくとされていて、いつもはご長女の嫁ぎ先に住まわれているのですが、久しぶりにお戻りになったのだとか。
この家がカフェになっているのをお聞きになって、びっくりされて。
実は磯部さんのお母様は、昔この家に住んでいた女性に子供の頃可愛がってもらっていたのだそうです。女性の名前も覚えていらっしゃいました。瑠衣子さんというのだそうです。
磯部さんも初めて聞く話だということで、私に聞かせようとお母様を連れてきてくださったのです。

戦争中から、戦後の昭和２２、３年頃のことだそうですが、この家でお習字を教えていただいたり、遊んでいただいたりしていたとか。
それが突然お引っ越しをされることになって、お別れにとても美しい友禅のお着物をいただいたと、懐かしそうに話してくださいました。
そうだわ、雨宮さんにもこのことをお知らせしなくてはね。

瑠衣子さんの引っ越しの理由？
磯部さんのお母様はまだ小さかったし、何も聞いてらっしゃらないようでした。
どこにいらっしゃったのでしょうね。
家財道具や好きな方からいただいた人形も残されて。

この店の奥が庭になっています。縁側だったところをテラス席にしました。夜はきれいに月がみえるんですよ。
昔、人が死んだら魂は天に昇って月に行くんだって聞かされたりしていませんでした？
月は亡くなった人たちが住むおうちなのかしらね。
懐かしい方たちが集まって、お酒など酌み交わしながら、ワイワイやっているのかもしれません。
そう思って月をみたら、なんだか寂しくないような気もいたしますわね。